よきこときく

よきこと
きく


「きかいのくに」



機械の国の人間は機械ですか?
いえ、いえ、みな機械ではありません。
けれどあのように、ほら一、二、一、二、と、
女王の命令に右、左、右、左と!
ええ機械のようにあちらへこちらへ。
でも機械ではない?
はい、機械ではありません。女王様も、働く人々も。
御覧なさい、あの摩天楼は機械の国。
日暮れをすぎ、夜になっても光り輝く機械の国。
かわいそうだわ。
いいえ、皆、機械ではなく、帰るところを持っています。
帰れない機械ではありません。
帰るところを持てば機械ではないの?
…あなたは、どう考えますか?


そうね、私はこう考える。
きかいのくにを制したら、
いきものたちは制せない。
女王様の孤独は誰にもわからないわ。
あの機械の国にうごめく人間タチ、には。
ピアノの名前はヴィランタン。歌っておくれ可愛いヴィー。
さて、冷蔵庫は気難し屋のゴルグワディン。
ぐぅるる唸るゴルグワディン。
お隣の炊飯器は不平家のフットハァーン。
ぶつぶつ呟くおかしなフッティ。
横でポットのカティーナがかろかろ笑い、
ガスレンジはバザテイリ、だんだろと燃え盛る。
ファックス電話のビビタラピ、がなるわがなる、大騒ぎ。
ヴィーはがんだらと怒って叫び、
おかげで私は巫呼斗(みこと)の声が聞こえない。
ああテレビのジーハ、
似てない双子のビデオデッキはアンスリーウにカナダンター。
皆がたぴし大騒ぎ。


パソコン、スキャナにプリンター。
三姉妹は上からウナラ、タォ、ルンペンシュティルツヘン。
彼女たちだって大騒ぎ。
そのうち水道とか電灯だって暴れだしちゃうわよ、……みことぉ。
素敵な家は機械(以外もなぜか、ね)の反乱。
私には無理なのにね、おさめるの。
あのひとが帰って来るだけ。
それだけで何故か、家のヒトには効果があるらしいのさ。
はるか、ただいま。
そう、その一言でぜんぶ静まるのさ。
あーああ、私の声じゃダメなくせにね?


おかえりなさい、私の、巫呼斗(みこと)
機械の国の女王様。
でももうここは私たちの家。だから。
おやすみなさい、女王様。
そばにいるのは私です。



ピアノの名前はヴィランタン。静かにうたう、可愛いヴィー。
冷蔵庫は気難し屋のゴルグワディン。唸りひそめて従順に。
炊飯器は不平家のフットハァーン。不平のかわりに蒸気をあげて。
ポットのカティーナくすくす揺れて、
ガスレンジはバザテイリ、なんて手ごろな火の感じ!
ファックス電話のビビタラピ、黙ってお仕事遂行します。
これなら私には聞こえます。
大事な巫呼斗(みこと)の眠る声。



そうね、私はこう考える。
きかいのくにを制したら、
いきものたちは制せない。
女王様の孤独は誰にもわからないわ。
この私以外に誰がわかるというの?