あるいはある愛の話
木偶がひとりで座っていました
月あかりの星に座っていました
男がひとり 星を渡ってやってきて
「私は君の繰り手にはなれないよ」と
言って 行ってしまいました
木偶は悲しかったのです
その男を好きになったので
こっちを見てくれないのが悲しくて 追いかけて
別の男がやってきて 囁いていきました
男がこちらを見る方法を
木偶がひとりで座っていました
月あかりの星に座っていました
繰り手を待って座っていました
もう あの男はいないのです
見てもらいたかったのに
その瞳が開くことはにどと ありません
木偶が少し 歩くと
星にぺたぺたと紅い足跡がつきました
月くぐつが歩いていきます――
足跡が残るのは悲しいからなのです
哀しいからなのです
悲しさにまみれて 哀しさに重くなって
星に苦しい足跡をつけるのです
ある日 男のこどもがやってきました
こどもは男でも女でもなかったので
月くぐつはほっとしました だって
けして自分と同じものではないとわかるから
けれどこどもは似ていました
男にも月くぐつにも
しまいに楽になることはないとわかっているところまで
月くぐつは大人になり
こどもは女になりました
だからふたりは互いを赦して
最後にもういちど たたかいました
足跡が残るのは悲しいからなのです
哀しいからなのです
悲しさにまみれて 哀しさに重くなって
星へ残した苦しみの跡なのです
たたかいのあとは
何もありませんでした
生まれてくる時にひきちぎられた半分の魂を
赦しあったのですから ね
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