序、あるいは時の満潮
空白(くうはく)色の髪の少女は静かにまどろむ。
闇の中で開いた瞳は、深い藍色に楽しそうに輝く。
彼女のいる場所には全てがあり、同時に何も無い。
ここは夢の生まれる場所。
彼女はただ序まりを待っている。
黒と灰と白いその者は、黒い鎖と七色の網を持っている。
それの鎖は死すべき魂を囚えるため。
それの網は死すべき魂を運ぶため。
ヤーマー、死を司る者は時の流れを飛びまわる。
空白色の髪の少女は、死を司る者(ヤーマー)にこう問うた。
おまえはなぜ、死を運ぶの?
ヤーマーは闇に佇み、こう告げた。
物云わぬ魂、地上に残ることはならぬ、と。
―――死のもたらす唖(おし)は魂を鬼と変える―――
時が満ちていないから。
今はすべて時が引いていく時。
ごらん、ヤーマーがあそこにいる。
闇の中から我らを見つめている。
あれはどんな災いと、どんな希望をもたらすのだろう。
ヤーマーは羽ばたき、いってしまった。
死の香りが生まれる場所へ。
空白色の髪の少女は、それをただ見守っている。
時は完全に引いた。
千とひとつの災いと希望が、生まれ、消え。
また生まれる。
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