「きれいなもの」
私の恋人はるかの親友は無性だ。
なんでも生まれた時からそうだったとか。
だから彼(もしくは彼女)は日によって、
男みたいだったり女のようだったりする。
いや時によってそうなる。まるで万華鏡。
背はあんまり高くない。でもつやつやした黒髪は長くて、すごく綺麗。
容貌もとても奇麗。見事な黄金比で、彫像みたいだ。名前はユージュ・由帰(ユキ)。
私はユユと呼ぶ。
はるかはゆーと呼ぶ。
どちらにせよ大した違いは、ない。
ある日ユユから電話があった。はるかでなく私に。
「もしもし?家に隕石落ちちゃってさ」
ユユの声、すごく明るい。
「入院してるんだ。見舞いに来てよ。真っ白い百合持ってさ」
百合は見舞いには良くないのに。
どうしても、聖母の百合(マドンナ・リリィ)が見たいんだって譲らない。
ねぇ来てよ。頼むよ女帝陛下。
耳元でうたうように優しく囁いてくるものだから、ね、はるか。
私と行こうね?ユユに会いに。私たちの古い友人。
墓の上にはいかめしい顔した彫像が据えられている。
男は…そこに眠る男…英雄…いや、単なる兵士が墓の下から叫ぶ。
おぅ、おおう!!
捕まえてやりたいね、聖母(マリア)の息子!
彼は叫ぶ――。
俺が英雄だって?ヘッ、俺が英雄!?
笑わせてくれるね、世間って奴はァ!
俺はそんなに御大層な理由で死んだんじゃないのさ、
それを英雄―――ハ!
俺は戦場にいた、戦場でヤってた、よくあることさ、
敵国の娘をさ、しっかり抑えつけてちゃっかり突っ込んで――
よくあることさ、よくあることなんだ。
捕まえてやりたいね、聖母(マリア)の息子。
捕まえてやりたいね、父(てて)なし子!
俺も孤児さ、俺も父なし子、だが何故あんただけが救われる?
ええ神の子!―――俺はヤってた、そうなのさ、それだけさ。
そこにあいつがやって来た。
銃を構えて一目散、俺と娘っ子の所、敵がさァ――。
ズダン!だ。ハ!
逃げようにも逃げらんなくってさァ。
…そうだろ?ヒャッハ!
捕まえてやりたいね、聖母(マリア)の息子!
墓場で子供たちは遊ぶのです。
子供たちにとっては最高の遊び場なのです。
隠れる石、綺麗に整えられた迷いそうなほどきちんとした場所。
いかめしく睨む英雄の彫像なぞも子供たちにとっては、ただただ冷たいモノ。
男は不意に疲れて、年老いて、死人の顔をしますでしょう。
…………おォい…。
叫ぶ声もとてもとても力なく、頼りない細ぅい声になりますでしょう?
墓場で騒ぐな、ガキども…。
眠りたいんだ…
英雄と騒がれ続ける男はそう呟きますでしょう?
――――眠らせてくれよ………
(捕まえてやりたいね、聖母(マリア)の息子)
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