よきこときく

よきこと
きく


ユユ、ユユ、一体どんな夢見てたの?
何でもないよ、
哀れな、そう哀れな男の夢だよ。
この間すっごくイイ、コンサート行ったのそこでね〜?
ん、久しぶりはるか。

はるかの手の甲にキッス。
ユユは時折、すごく騎士になる。
それからことも、久しぶり。
私の額にキッス。
ユユは時折、すごくお母さんか主人のようにもなる。

年上なのか年下なのか判らない、性別を知らない古い友、ユユ。
来てくれて有難うね、はるか。こと。嬉しいよ。
ありったけの白百合抱えて、ユユは小悪魔めいた笑みをする。
ああ聖母の百合(マドンナ・リリィ)だ。奇麗な百合だ。
有難うね巫呼斗(ミコト)―――こと。
私をその愛称で呼ぶ人は多くないよ、ユユ。知ってた?ねぇ知ってた?
……しつこいかな。

隕石落ちてきたんだって?うん、屋根に大穴。
びっくりしたよ。欠片。これ。横に置いてあった白緑の塊。
勾玉みたいに綺麗な色してるでしょ。ほら。磨けば光る?どうかな。
ふふ。笑う。ふふふ。私も笑う。
はるか、ぷうって頬っぺたふくらまして、
バタン
扉が開く。びしょびしょに、濡れた髪、服、瞳の色。
灰色(グレイ)
夜姫(ヨキ)
ユユがその綺麗に整った、完璧な男の子に声をかける。
ヨキ。ユユの弟。双子の、綺麗な男の子。
夜姫、どうしたの?
ユユが同じように綺麗な灰色(グレイ)の目、ぱちぱちさせて尋ねる。夜姫が言う。親父が死んだ。
奇麗な声で。
隕石がごとりと落ちた。床にキッスするように。白い病室。しとしと、何時の間にか降り出した雨の匂い。
凍ってる空気。しん。
…俺、帰んなきゃ、駄目?
ふとんに埋れるように、怯えるようにユユが訊く。
駄目?甘えるように夜姫に訊く。
由帰。
夜姫はしぼりだすように名前を呼ぶ。
由帰。由帰由帰。
嫌だ、俺、あの人が冷たく笑うトコロなんて、見たくない。
ユユはすごく青ざめている。
転がった白緑色の隕石。白い病室。――ユユが泣いてる。

はるか、出よう。
私はそっと言って病室を抜け出る。そこにいるのは由帰だから。私たちのユユじゃないから、ね、はるか。振りかえった。
首をかしげてしばらく中のふたりを見ていた。
ユユはほんとうに無性なんだね。
はるかが、少し笑った。
由帰と夜姫は双子で姉弟で兄弟で兄妹で、恋人だねって。
隕石の欠片が静かに光ってた。落着いたらユユに会いに来よう。
奇麗だね。由帰と夜姫。

夜姫、由帰にキスしてた。静かに涙を飲んであげてた。
病院の廊下はすごく余所余所しいから。
いこうか、巫呼斗。



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