よきこときく

よきこと
きく

「ことごとく夢」

おとぎばなしをしようか?
いいね、してよ。どんな話?
翼のある花の話、それとも眠らない月が見た夜の話。
12の月の精がひとつずつ語る話?
奇し恋の話。



仮面。


天幕の中は、暑かった。
そして、熱い。
人々の素顔はむきだしになり、
また同時に《観客》という〈仮面〉の中に沈む。
舞台の上では、
踊り娘が〈うた〉を歌っている。

光と闇      天と地     空と森
月と海   火と水  風と土
男と女
動と静
昼と夜
理性と感情
なんて 遠いものたち
いちばん遠くて   いちばん近い   
なんて 同じものたち      相反するものたち
求めずに               ―――いられない


扇をひるがえす。
色とりどりの細い布が宙に舞い、
光と闇は
明滅をくりかえしながら
反転。
踊り娘は、まだ若い。
17には満ちて、20には満たない。
やわらかく、みずみずしいその肢体を
おしげもなくさらして、
毒よりも甘い笑みをたたえる。

あした             階段の下で
どこにもいない人を見た
彼はやってこないだろう けして    はやく 消えてしまえばいい

狂喜の乱舞。
仮面にかくされて、踊り娘の表情は見えない。
《観客》は仮面の下の
毒であり、
また至上の蜜である
その笑みを見たと感じる。
それは、ある意味での真実。

終わりが見えず、永遠に続くかと感じる
踊り娘の舞い。
打ち破られた。
……道化師の登場。



楽屋に戻り、踊り娘が仮面をはずした
……次の瞬間
強く突かれ、好んで置いたクッションの上に倒れこむ。
山と積まれた色とりどりの羽毛のクッション。
熱く、重い質量を持ったものにのしかかられ、
声を奪われる。
数10秒の後
はぁ……と吐息が聞こえる。
押さえ込まれ、爪をたてられ、
羽毛が、抗議するかのように飛び散り、
宙をいろどり舞い散る。

「………道化師のクセに………」
残りは、耳に直接話す。
……デカくてハンサムなんて反則よ……
「ライ……今更言ってどうする?」
むくりと彼がライの上から身を起こす。
と思った瞬間再び押し倒され
さきほどよりも深く、強くむさぼられる。
不意に、
ライは彼を突き放した。
「やめてよ、テュゥス。先客がいるんでしょ?
途中で思い出してやめられたら……たまったもんじゃないわ」
「そんなこと言うなよ、ライ。確かに先客はいるけどな…」


目の前を、ちらちらと
春の雪が。
移動する。
次のまちへ行く。
冬の終わりを告げながら。おなじように
あたらしい春を告げる。

あたしは冬。
テュゥスはまるで春の雪。
そして季節そのもの。いつも、次のまちで
あたらしい春、恋人を
―――みつける。
ときおりあたしの元へ帰りながらも、
さまよう。
―――いってらっしゃい。


テュゥス、あなたは―――……
なにがあっても、必ずあたしのところへかえってくる。


きづいて、いないでしょう?
先々でみつけるあたらしい春、
恋人は―――……
皆、あたしの〈仮面〉を
かぶっている。
あなたが愛しているのは、
あたしと
あたしの〈仮面〉をつけた幻影。

〈仮面〉は、偽り。

〈ひかり〉と、〈やみ〉
〈てん〉と、〈ち〉
〈そら〉と、〈もり〉
〈つき〉と、〈うみ〉
〈ひ〉と、〈みず〉
〈かぜ〉と、〈つち〉
〈おとこ〉と、〈おんな〉
〈どう〉と、〈せい〉
〈ひる〉と、〈よる〉
〈りせい〉と、〈かんじょう〉

〈かめん〉は、いつわり。
〈うそ〉と、〈しんじつ〉
愛するひと。
きづいて、いないでしょう?


夜明けが来て、
ライは、舞台で使う仮面を手に取った。
そっと、つけてみる。針のようにすぼまった視界。
―――足音が聞こえる。

……あたしは冬。
〈仮面〉を、
偽りを支配する冬。

仮面をとる。
今日は、このまちでの、最終日。
ふいに、後ろから、抱きすくめられる。
ふりむいて、唇を、またむさぼられた。
あたしの春。
〈真実(テュゥス)
彼は、必ず―……
〈仮面〉、冬であり偽りである
〈嘘(あたし)
の元へ帰ってくる……




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