一瞬の永遠、永遠の一瞬

四神
幻夢譚



 天界の中心には天宮――金闕雲宮(きんけつうんきゅう)があって、天帝陛下がいらっしゃるわけ。
 今の天帝陛下、お名前は望(ワン)とおっしゃって、――これがまたとんでもないヤンチャさんで。
 見た目は良いのよ?あたしが見た中では一番じゃないかしらん…。綺麗な金の髪と、藍と翠の瞳をなさってて、モテるし、一途だし、妃を娶ったらさぞかし大事にしてくれるだろうけど、それでね、天帝陛下――ああもう、望でいいわよね?――望には従弟にして異母弟の、開(カイ)ってのがいるわけ。現地帝陛下なんだけど。

 開はもう、すっごくいいコよ?銀髪なこと以外はもうほんっと外見は望にそっくり。でも性格から来るのかしら?印象は全然違うの。それこそ天と地、よ。
 地帝陛下は、ほとんど人界みたいなところに住んでるの。黄樹崖(おうじゅがい)っていって、人界から天界へ行く唯一の門、ね。開はひとりぼっちよ。そこに住んでて。――で、静(ジン)がたびたび訪ねて行くのね。開もたびたび静の所に来るのよ。……それが問題なのよ。

 あたしのことを言い忘れてるわね。
 あたしは月沙(ユエシァ)。天帝と地帝の側仕え。もう六万年近く、この役職を仰せつかってるの。…そう、六万年。あたし年寄りねー。まぁ、静の方が年上だけど?あ、静?静は玄武の殿でございます。御年…開闢(かいびゃく)の頃から居るらしいから、七万年、ってことにしとけるかしら?

 そうよ、静よ――天帝陛下であるところの望はね、静に惚れてるの。もうベタ惚れ。あのコには男同士とか年の差とか関係ないみたい。念兄、念弟ってこともあるし?それで年中、望は静のところに入り浸ってね、しつこく口説いてるわけ。でも望は天帝よ。地帝じゃない。地帝なのは開。だから、問題なのよ。

 四方を守る将神の中で、玄武は地帝との協議が義務なのね。
 大地の守護は豊穣の守護。四方の司る元素が絡むからそれは地帝の領分。でも大地そのものは玄武の領分よ。だから協議して決めるの。――多分、玄武が静じゃなかったらそれも変わってたのかもしれないけど。つまりね、つまり、―――開が静を訪ねるのは全く理にかなってるのよ。もちろん、静が開を訪ねるのも、ね。でも望が――ってのは、これは誰がどう考えたって違うわよねぇ?

 その事が本当の本当は、すっごく重要な事実を示してた、なんて――誰も気がつかなかった。……当り前よ、ね。

 いいわ、これから話してあげる。あたしだって、こんな大騒動の顛末、こーんな楽しいこと、誰かに話したかったし。大事な朋友の静の人生、大いに変えちゃった――一騒動を、ね。

 ――ことのおこりは蟠桃会(ばんとうえ)よ。蟠桃会って知ってる?……知るわけないか。

 西の果て、遙池(ようち)にあって女仙を束ねるのが遙池金母――西王母さまよ。その遙池の桃園で開かれる宴を蟠桃会っていうの。天界の青い桃の下、一級の神人、神仙、皆を招んで――…新たな西王母の立位を祝すの。

 西王母の立位っていうのはね、次の西王母を長女が身ごもった時、つまり、次期王母が母になった時になされるの。夫披露も兼ねるから、そりゃあ盛大なもんよ。でね、当然――天帝、地帝、四方将神も招かれてるのよ…。



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