よきこときく

よきこと
きく


「よしなしごと」



ある人が大事にしている娘を、
女帝と呼ばれる大物が密かな恋人にしていて、
年の瀬に家に籠って逢引するから
「逢う為に家と暇と貴女と愛が欲しい」と彼女に言ったところ、
親の承諾やなにやかやまで揃えてプレゼントしてくれたらしい。


それを彼女が昔からのつきあいの友人が聞いて、
「では私も彼女に何か借りよう!」
と出したメールが面白かったので、
ここにそれを書き写してみました。


こんなメールをいったい誰が書くんでしょうか?
海の果ての大陸や島の人?
あの世に住む人?
空の奥の奥の奥に住む人とか、宇宙のお役人でしょうか?

いやいや、そんな人たちでもとてもとても―――。

―――さてさて




「貴女と彼の方との浮名はよく聞こえてくるけど
 まぁ要領のいい貴女と女帝である彼の方のこと、
さほど心配はしてません。
 比べて私は勿論貴女方の足元にも及ばぬ変人でしょうけど、
 その私だってどうにもならぬことはあるもので、
こうしてお願いするのよ。

 最近世の中のことに目を向けてみたらずいぶんとヤバい世なのね。
 知っている人も知らない奴も
 熱に浮かされた日の夢みたいにあっさり
 目覚めと一緒に消えていくのよね。

 私もいい加減年なのかしら?
 (人っていうのは稲光より早くて風より愚かしいもんかね)って
 人生悟ったような事をいろいろ考えて
(ああもういい加減どこぞに隠れたい、
この世にいるのはキツイわ)って
ちょっと決心したんだけど、
さてはてどこにしたらいいのかと思ってね。

高層ビルのてっぺんとかもしくは富士山の頂上、
いやいや、そんな所よりも身近なかまどの中
いっそ雪深い山の中とか谷とか、
結構近い、隣の家の地下のさらに下など、
人のたやすく来ないところにでも引き篭ろうかと思うのですよ。


いや国内では近すぎるか?
オーストラリアの岩の上か崑崙山のあたりはどうでしょうね?
いやいやそれでも近いわ。
北極点など良いかもしれません。

それでもまだ地上を離れていませんねぇ?

雲の上に響きを轟かせて昇り月と日の中に混じり、
霞の中を飛びまわって住もうかと思っているところなのです。


それでもまぁ私も人間ですので人里離れたところに住んでも
生活に必要なものはあるわけなのでございますね。
でしょう?
このようなことを他に誰にお願いできるのよ。
長いおつきあいですからね、誰よりも情け深い貴女のこと、
きっと用立ててくださるでしょう?
ぜひにお貸しくださいな」




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