よきこときく

よきこと
きく




だってさ、とはるかが言った。
はるかは可愛い。可愛い。可愛い。
ここから先は読んでもねえとはるかは言う。

堤中納言物語にさ、「よしなしごと」っていうのがあってさ、
それをアレンジしたのね。

ゆーは面白い人だよね。変人か。
そういえば彼女が言ってたよ。
恐竜はド派手な羽毛に覆われてたって説が何だか有力なんだって。
ド派手な羽毛いいよね。
それだけでなんか極彩色のジャングルが目に浮ぶもん。
あれよ、夜の森ペレリンと色の砂漠ゴアプ。
今にもグラオーグラマーンが出てきそうな。
読みたくなっちゃったね。

私グラオーグラマーンはスフィンクスだと思っていた。
それで思い出したよ。
スフィンクスはね、女なんだよ?


女の子がひとり風邪で寝ていて。
外は雨、母は出かけた。暗い部屋にひとりきり。
しっとりした暗闇の中でひとりで寝ている。
高熱で朦朧した視界の中にふと虹色の渦がくるくる回ってる。
熱に浮かされた頭はそんなんでも面白くてじっと見る。
大きいのから小さいのまで暗闇に生まれてはくるくるくると。


そうやってグダグダしていると
急にヤカンがぴぃぴぃ鳴いて私を呼ぶ。
じゃあ食べようか。食べよう。
ねえねえ浮気は許さないからね。
さあやもめの好きな煮豆食べようか。

はるか、どうしたの怖い顔して?
みかん食べようよ。恐竜を祝ってさ、ホラ。
お手玉してたらみかん、落ちちゃってつぶれた。ぐしゃり。
オレンジ色の血。


冬の一日。
はるか、しよ?って天真爛漫に笑う。
寒いから嫌だよって答えるけど。
キスの震度は10以上。
髪が好き笑顔が好き顔が好き。
肌が好き瞳が好き全部好きとにかく好きずっと好きホントに好き。

好き…好き…好き…。


はるかを私は姫抱きして、寝室の扉をばたんと閉めた。





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